その日は、特別な日ではありませんでした。
月曜からの仕事が頭にあったのは確かですが、それは毎週のことで、その日だけが重かったわけではありません。
午後10時頃に布団に入って、目を閉じました。眠れないこと自体は珍しくありません。ただこの夜は、そこから一晩中、本当に一度も眠りに落ちませんでした。
午前1時、まだ寝つけない。頭の中で明日の段取りが繰り返し再生されている。
今夜は絶対に眠れない。「もう寝るのは諦めよう」と思いました。
そして、はっきりと思いました。
「もう、自分一人ではどうにもならない」。
スマホを開いて検索を始めたのは、それからです。
なぜ、心療内科を避けてきたのか

正直に書きます。心療内科に行かなかった本当の理由は、「自分のキャリアが終わったと認めたくなかった」からです。
医学的な理由ではありません。「精神科に通った記録が将来の何かに影響するのでは」という漠然とした不安は確かにありました。でもそれは表向きの理由で、本心はもっと単純で、もっと幼かった。
「自分は普通に働けている。会議もこなせている。家族もいる。眠れていないだけで、それ以外は大丈夫」——そう思い続けることで、自分のキャリアや生活が、まだこれまで通りに続いていくと信じていたかったのです。
だから、「もう少し頑張ればきっと整う」「次の連休にゆっくり寝れば戻る」と先延ばしにしてきました。
先延ばしの本質は、現実から目をそらすことだった——と、今振り返るとそう感じます。
頭では「眠れないのは何かのサインかもしれない」と分かっていました。でもそれを医療の場に持ち込んで、「あなたには治療が要ります」と言われるのが怖かった。それ以上に、自分でその一線を踏むことが、何かの敗北のように感じられたのです。
不眠が本格化した「ある期末」

短時間睡眠は20代の頃から続いていましたが、本格的な「不眠」と言える状態になったのは、ある年の期末からでした。
きっかけは業務量の大幅な増加です。担当する領域が広がり、抱える案件の数も急に増えました。「これは無理かもしれない」と思いながら、それでも目の前の仕事を片付けることでしか前に進めず、夜も頭が職場にあったまま布団に入る——という日が続きました。
最初に出てきた症状は、頭の左側の頭痛でした。寝不足が続くと、決まって左のこめかみの奥が重く痛む。それが一度始まると、その日一日、思考に膜がかかったような感覚が続きます。
仕事のパフォーマンスは、自分でも分かるくらいに落ちていました。
家族にも余裕がなくなりました。妻や子どもの何気ない言葉に強い口調で返してしまい、後から自分を責める。自分のことを、自分で好きになれない時期でした。
そしてある夜、布団の中で「このまま朝まで眠れなかったら、明日の自分はどうなるんだろう」という不安から、もう一段深いところに思考が降りた瞬間がありました。それ以上考えたくないところまで、思考が行き詰った夜でした。でした。
それでも翌朝になれば、私は身支度をして、会社に行きました。誰にも何も言えませんでした。
オンライン診療を選んだ理由
一睡もできないと思った夜、私が最初にしたのは「睡眠外来 病院」でのネット検索でした。
そもそも、実際の心療内科を受診する時間の余裕がない。
時間の節約のため、職場から近いクリニックにいくと、職場の同僚に観られるおそれがある。
これらの理由から、実際の心療内科を受診するという選択肢は自分にはありませんでした。
検索の中で出てきたのが、不眠を扱うオンライン診療でした。筆者が選んだのは「患者目線のクリニック」という、保険が使えるオンラインの睡眠外来です。

スマホで予約して、自宅からビデオ通話で医師と話せて、薬は郵送でも届く(自分は薬局受け取りにしました)。家から出ずに済む、誰にも会わずに済む、保険証の事務処理を窓口でする必要がない——その3つが、私には魅力的に見えました。
最も大きな理由は、「オンラインなら、もし思っていたのと違っても、ビデオを切ればそれで終わりにできる」と感じたことです。
対面の予約をしてしまうと、当日キャンセルしづらくなる。オンラインなら、画面越しの十数分で完結する。逃げ道のある選択肢だったから、私はそこに踏み出せたのだと思います。
あなたの「眠れなさ」は、どのタイプ?
不眠は4タイプ(入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害)に整理されることが多いとされています。まずは自分の傾向を把握するところから。
受診までの流れ
・指定されたスマホアプリをインストール
・アプリの指示に従い、会員登録
・診療日時を予約
・決済手段(クレジットカード等)と保険証(マイナーカードも可)を登録
・アプリで問診票に回答(不眠の状態・継続期間・困っている内容・他の病院への通院状況などを記入。記入は10分くらい)
・予約時間の15分前程度にアプリのメッセージで通知
・先方からビデオ通話がかかってくる
・ビデオ通話でやり取り(医師の自己紹介→現在の状況の聞き取り→いくつかの追加の質問→処方の方針の説明)

医師からは
「最近の不眠の症状」
「眠れないこと以外に気になること」を聞かれました。
医師の対応は淡々としていました。でもその淡々さが、私には逆にありがたかった。深刻ぶられるとそれ自体が重荷になる、というのが当時の感覚です。
通話の最後に、処方される薬の説明があり、7日分の処方薬を出してもらえることになりました。
診察後、処方薬の受け取り方法の案内があり、事前に登録した決済手段で決済がされました。
処方箋は、指定の薬局へFAXで送られました。
処方された薬を受け取って感じたこと
2日後、指定した薬局で睡眠薬を受け取りました。
封を開けて手に取ったとき、ホッとしました。「これで今夜どうしても駄目だったら頼れるものがある」という感覚が、その袋の中に確かにあったからです。

ただ同時に、「これに頼ってしまったら、もう自分の力で眠ることはできなくなるのではないか」という不安もありました。依存への恐れです。
処方は7日分でした。私は実際にはそのうちのごく数回しか飲んでいません。具体的な感想は別記事に書きますが、結論だけ先に書くと、私にとって処方された薬は、「飲むためのもの」というより「持っているだけで夜が違って感じられるお守りのようなもの」になっていきました。
布団に入る前、引き出しを開けて薬がそこにあることを目で確認するだけで、「今夜どうしても駄目だったら頼れるものがある」という安心感が生まれます。これだけで、布団の中の「眠らないと」というプレッシャーが、はっきりと弱まりました。
私はこれを、自分の中で「心の保険」と呼んでいます。保険は、使うために加入するのではなく、「使わずに済めばそれでいい」と思いながら持っているもの。私にとっての処方薬は、まさにそういう位置付けに落ち着いていきました。
「飲まないなら処方してもらった意味がないじゃないか」と思われるかもしれません。でも私の中では逆で、「持っていることで、布団の中の焦りが弱まる夜が増えた」——という感覚が、確かにありました。
生活改善を同時に試しています
私は処方薬を「お守り」として持ちつつ、生活の側でできることを並行して試してています。
具体的には、
- 寝る前のスマホを早めに置く習慣
- 短い瞑想・呼吸法
- 食事と運動のリズムを整える
- 睡眠サポートサプリも試してみる
——といったことを、ゆっくり試しています。一つ一つの効果がはっきり分かるわけではありませんが、「何かを試している自分」がいることそのものが、夜の不安を弱めてくれるように感じています。

処方薬だけに頼らないと決めたのは、「薬を主軸にしてしまうと、薬がなくなった夜が怖くなる」という直感があったからです。あくまで主軸は生活の側に置いて、薬はその支えとして引き出しに入れておく——という配分が、今の私には合っています。
補足:オンライン睡眠外来には2つのタイプがある(2026年6月時点)

前半で書いたとおり、筆者が受診したのは「患者目線のクリニック」という保険適用型でした。いまは自由診療型という選択肢もあります。これから受診を考える方のために、2つの違いを整理しておきます。
保険適用型は、保険が使えるので1回あたりの自己負担が小さいです。診察料は初診で約1,000円。これにシステム利用料が約1,000円。薬代は、対面で受診したときと同じ3割負担でした。受診にはマイナ保険証などの登録と、保険資格の確認が必要です。診療を受けられる時間は、土日も含めて9時から24時まで(受付は終了30分前まで)。費用を抑えたい人には、こちらが向いています。
もう一つが「デジタルクリニック」をはじめとした、自由診療型です。保険を使わないぶん、費用は全額自己負担になります。料金はプランによって異なり、デジタルクリニックの説明では「1日あたり99円から」とされています。そのかわり、対応できる幅が広いです。診察は24時間365日。再診料は何回でも0円、と案内されています。薬は最短で当日に発送される、とされています。保険証の手続きも不要。荷物は、外から中身がわからないよう配慮された梱包で届く、とされています。
| 比べる点 | 保険適用型(患者目線のクリニック) | 自由診療型(デジタルクリニック) |
|---|---|---|
| 1回の費用 | 安い(3割負担) | 全額自己負担(1日99円〜とされる) |
| 受診の記録 | 健康保険組合に残る | 保険を使わず残らない |
| 保険証 | 登録・確認が必要 | 不要 |
| 診療時間 | 9〜24時(土日もふくむ) | 24時間365日 |
| 再診料 | 毎回かかる | 0円 |
| 薬の発送 | 薬局受取・配送 | 最短当日 |
お金以外で、一つ知っておくとよい違いがあります。
受診の記録です。
保険を使って受診すると、その記録は、加入している健康保険組合に残ります。会社の上司や人事が直接見られるものではありませんが、記録そのものは残ります。自由診療は保険を使わないので、記録自体が残りません。どちらが良いということではありません。気になるかどうかは、人によります。
まとめると、
1回の費用だけを見るなら、保険適用型のほうが安い。ただ、受診の記録を残したくない、保険証を使いたくない、深夜にすぐ相談したい——そういう場合は、自由診療型という選び方になります。
筆者が今の知識でもう一度選ぶとしたら、その日の状況で使い分けると思います。
まとめ:受診を迷っている人に伝えたいこと
ここまで書いたことは、あくまで私の場合の話です。同じやり方が他の人に合うとは限らないし、オンライン診療がすべての方にとって最適な選択肢でもないと思います。
ただ、当時の私のように「対面の心療内科には行きたくない、でも一人で抱えるのも限界」という状態にある方には、「オンライン診療という選択肢がある」ということ自体を、知っておいてほしいと感じています。
医療機関に行くか行かないか、薬を試すか試さないか——その判断はそれぞれの方の状況によります。ここで私から「受診したほうがいい」とも「しなくていい」とも書きません。
ただ、私が実感しているのは、「自分一人で抱える時間が長いほど、自分への蓄積ダメージは大きくなる」ということです。先送りの先に整理が来るとは限らない。むしろ、夜の暗さに慣れていく方向に、私は進んでしまっていました。
もし今、過去の私と同じ位置にいる方がいたら、「行く・行かない」の二択ではなく、「いつ・どこで・どういう形で誰かに話すか」を自分のペースで選んでいい——そう感じてもらえたら、この記事を書いた意味があると思います。

実際に処方された薬を飲んで、私の体と気持ちに何が起きたか——その記録は別記事にまとめています。「処方薬を飲むこと」への不安が大きい方は、こちらも併せて読んでもらえたらと思います。
薬以外の選択肢も知りたい方へ
処方薬を受け取った後も、毎日飲む気にはなれませんでした。そこから別の選択肢として睡眠サポートサプリを試すことにした経緯を、別記事にまとめています。
本記事は筆者が実際に受診したオンライン診療と、医師から処方された薬に関する個人の記録です。特定の医薬品を推奨するものではなく、効果効能を保証するものでもありません。医療機関の受診や服薬については、必ず医師の判断に従ってください。
